「ヤコブセンの家」

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            プチグラパブリッシング刊

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幸福というのはこういうものなのだと本を閉じてしばらく沈黙した。2005年に出版されたこの本に出会ったのはつい一週間前のことだ。中古本なのだが、手のひらにぬくもりが伝わってくるように思えた。書物のありがたい事は人づてに次々と手渡されていくことだ。形のない大切な贈り物のように。6年経っていてもページにこめられた幸福はひとつも色あせていない。
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ヤコブセンの家  ソンビューベスタ通り29番地
著者の岡村恭子さんはブログで書いておられるが自称、”見つける名人”だそうで、この1936年に建てられたヤコブセンの家の売り出しを新聞広告で見つけたり、名作アンティークのソファを雨の日に粗大ごみ集荷場で見つけたりする直感の働くひとのようである。しかし、一番の”見い出しもの”はなんといってもご主人のタカシさんだと思う。出会いは1980年にさかのぼり結婚されて30年間ずっとコペンハーゲンに住みデンマークのライフスタイルをつらぬいて来られた。住居や庭の手入れ、買い物事情、友人や留学生やご近所の人との交流、娘さん(彩さん)の教育の話、雪かき、そして料理のレシピまでが衒うことなく活写されている。
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ヤコブセンの家の庭にはなんと見事な桜の木があって4月に満開になるところからこの本の話は始まり、日々の暮らしぶりが幸福の織物のように綴られていく。桜の木がお二人を見守ることで日本へのほのかな思いが同時に織り込まれていく。この織物はどうやら経糸が、デンマーク的な心と日本的な心でしっかり整経されているようだ。
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タカシさんはデンマークのデザイン学校を出て1973年以来、家具デザイナーとしてワールドワイドに活躍されている。ヤコブセンを始めデンマークの著名な建築家、デザイナーの作品を敬愛して、この家を自分流にしつらえてきた。これは住宅というものが建築家の手を離れてから漸く始まるドラマのお手本のようなものだと思う。インテリアデザインなどというものは長い時間をかけて生活のなかで自然体で立ち上がってくるものかも知れない。本の終章「ありがとうヤコブセン」はこのように結ばれている。
人生にとって「住まい」がこんなにも大きな意味を持ちうるということを、ソンビューベスタの家が私たち家族に教えてくれたのです。孝さんと二人で早春の庭に出て、これから巡ってくる明るい季節に思いをはせながら、「もしも、ヤコブセンが我が家を訪ねて来たら、まずなんと言いたい?」そう尋ねると、彼は木の芽がふくらみ始めた桜の幹を優しく叩くと、しばらく考えてからこう答えました。「ソンビューベスタの家をありがとう」
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今年も桜の開花が楽しみです。
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*お二人のブログアクセスはこちらから
写真は岡村さんのご了解を得て転載させていただきました
(TAKEZO)
 
 
 

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「ヤコブセンの家」” への2件のフィードバック

  1. 昨年10月、岡村さんのお宅にお邪魔しました。
    孝さんがデザインされた家具をゆったりと配した空間は、なんともうらやましいものでした。
    孝さんの熱いお話も頂戴し、ヒュッゲなひとときでした。
    takezoさんも若いころ、訪れたことがあるそうですね。
    また、takezoさんと会いたいとおっしゃっていましたよ。

  2. 20年も前になりますか。まだアパートメントの頃にお邪魔しており、タカシさんと夜通し飲んだような記憶があります。酔人は今も健在のようですね。ますます武勇伝が増えていそうな気がする。恭子さんは本で見えてくるそのままの方です。続編を書いてくれると良いと思います。ところで、ソンビューベスタ29で入力するとgoogle mapでは素晴らしい景観が出現しますね。
    ヤコブセンの家は一度と言わず是非、お尋ねしたいです。
    (takezo)

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